ファシリテーションのコツ議論が止まる3つの型と、動かす問いの出し方

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進行役を任された。台本も作った。それでも当日、最初の問いを投げた瞬間に部屋が静まり返る——ワークショップや社内の議論の場で、いちばん心臓に悪い時間です。

「ファシリテーションのコツ」を調べると、傾聴、安心できる空気、全員が発言できる場づくり、といった心構えが並びます。どれも間違いではないのですが、沈黙が落ちた3秒後に使えるものではありません。現場で実際に効くのは、もっと手続き的なもの——どの問いに言い換えるか、どのタイミングで何を宣言するか、押したときにどれを捨てるかです。

この記事では、当日その場で使える具体だけを書きます。ひとつだけ先に断っておくと、進行の技術で救えない場もあります。決める人が部屋にいない、成果物の形が決まっていない場合は、進行をどう工夫しても結果は変わりません。その前提は社内ワークショップが「やって終わり」になる理由にまとめてあるので、心当たりがあれば先にそちらを見てください。

ファシリテーションの仕事は「意見を引き出すこと」ではない

最初に、仕事の定義をずらしておきます。

進行役の役割を「意見を引き出すこと」「全員に発言してもらうこと」だと思っていると、当日の判断がすべて空気の方向に引っ張られます。発言が途切れたら話題を変える、盛り上がっている話は止めない——その結果、終わってみると全員が満足していて、何も決まっていない。

実務としてのファシリテーションは、次の2つに尽きます。

  1. いま何の話をしているのかを、全員に見えている状態にする
  2. 時間内に、次に誰が何をするのかまで落とす

発言量も、盛り上がりも、この2つの手段でしかありません。静かなまま全員が書いて終わった場が良い場であることは、普通にあります。

私は台本の1ページ目に、「今日、この部屋を出るときに決まっていること」を一文で書いて、開始時にそのまま読み上げます。「今日は、来期に最初に着手する施策を1つ決めて出ます」のような一文です。ここが曖昧なまま始まった場は、ほぼ確実に終盤で迷子になります。

毎週の定例会議でも、この一文を最初に読み上げるやり方はそのまま使えます。定例会議に絞った進め方は定例会議の進め方に書きました。

議論が止まるのは、だいたい3つの型しかない

止まり方には種類があり、それぞれ打ち手が違います。まず見分けることが先です。

型A:抽象で固まる。 問いを投げたのに誰も口を開かない。「課題は何ですか」「どう思いますか」のあとに来る沈黙がこれです。考えていないのではなく、どの高さで答えればいいか分からない。

型B:広がって戻らない。 発言は活発なのに、価格の話、競合の話、他部署への不満へと流れていく。参加者は議論しているつもりなので、放っておくと一周して時間が終わります。

型C:意見は出ているのに決まらない。 どの案もそれなりに正しく、並行線のまま。「持ち帰って検討」で終わるときの典型です。

見分け方は単純で、黙っていれば型A、話しているが議題から離れていれば型B、議題の中で並行線なら型C。対処は順に、問いを一段下げる/今日の一文に戻す/判断軸を先に決める、になります。

型Bに戻すための一問は、場ごとにあらかじめ決めておくと迷いません。顧客の話をする場で私が使っているのは「そもそも、なぜその手段を取ることになったんでしたっけ」という一問です。この仕込みは顧客解像度を揃えるワークショップのつくり方でも触れています。

問いの作り方——抽象度を一段ずつ下げる

型Aへの対処が、ファシリテーションの技術の中心です。沈黙は、問いが答えられる形になっていないだけのことがほとんどなので、言い換えれば動きます。

答えられる問いの条件は3つ。自分が見たことから答えられる/答えが1つに絞れる/答えても評価されない。この3つを満たすように書き換えます。

  • ✕「顧客の課題は何ですか」→ ◯「直近で失注した案件を1つ思い出してください。先方が最後まで気にしていたのは何でしたか」
  • ✕「この施策をどう思いますか」→ ◯「この施策を来月から回すとして、最初に詰まりそうなのはどの工程ですか」
  • ✕「何か意見はありますか」→ ◯「いまの話で、自分の部署だと当てはまらないところはどこですか」

いちばん使ってはいけないのが「何か意見はありますか」です。誰に向けた問いかが決まっておらず、答えの形も自由すぎる。この一言で場が止まるのを、何度も見てきました。

一段下げても動かないときは、もう一段下げます。期間を切る(この半年で、直近3件で)、数を指定する(3つ書いてください)、主語を変える(会社としてではなく、自分の担当範囲だと)。このうちどれかで、たいてい手が動き始めます。

なお、卓ごとに沈黙している・一人が話し続けているといったグループ単位の崩れ方への対処は、席の組み方の問題でもあります。そちらはワークショップのチーム分けに分けて書きました。

発散と収束は「宣言」で切り替える

止まる以外のもう一つの事故が、発散と収束が混ざることです。

出している最中に「それは難しいのでは」と評価が入ると、そこから先は誰も出さなくなります。逆に、絞る段階で新しい案が出続けると、いつまでも決まらない。どちらも、いま何の時間かを全員が共有していないために起きます。

なので、口に出して宣言します。

「ここから10分は、数を出す時間です。いいか悪いかはまだ言いません」
「ここから先は絞る時間です。新しい案は、いったん脇の付箋に置いてください」

この「脇の付箋」が地味に効きます。出てきてしまった新しい案を、捨てずに置いておく場所をつくる。却下された経験をすると、人はその日のうちに黙るようになります。置き場所さえあれば、「それは脇に」で場のテンポを落とさずに流せます。

収束の運びは、グルーピング → それぞれに名前をつける → 投票 → 上位2つだけ深掘り、の順で固定しています。出たものを全部扱おうとすると、全部が浅くなって終わります。

投票のときのひと工夫として、私は「良いと思うもの」ではなく「自分が関わってもいいと思うもの」に票を入れてくださいと言います。同じシールでも、当事者性が入った瞬間に票の散り方が変わります。誰も手を挙げない案が上位に来ることがなくなるので、次の「誰が・いつ・何を」の時間がそのまま繋がります。

場を見えるようにする(書く人は、進行役と分ける)

進行役が板書も兼ねると、書いている間ずっと場に背中を向けることになります。その数十秒で議論は止まるか、別の方向に行きます。書く人は必ず別に立てるのが、いちばん効果が大きく、いちばん実行しやすい改善です。

書記のルールは1つだけ決めておきます。発言者の言葉のまま書く。要約しない。

要約は解釈です。議論の途中で解釈を挟むと「そういう意味じゃないんですが」が発生し、そこから言葉の定義の議論が始まって、本題が10分遅れます。まとめるのは収束のフェーズに入ってからで間に合います。

発言者の名前を書くかどうかは、お題で切り分けます。業務プロセスの改善なら書いたほうが後で追えるので書く。評価や人事に触れるお題なら、無記名にします。

そして、ホワイトボードの上端には「今日決めること」の一文を常時掲示しておきます。型Bで話が逸れたとき、「いまの話はここに繋がりますか」と指さす先が物理的にある状態をつくっておく。指をさすだけで戻せるので、進行役が話を遮る必要がなくなります。

オンラインの場合は、スライドではなく1枚のテキストドキュメントを常時画面共有します。スクロールしない上端に今日決めることを固定し、その下に書いていく。事前課題で集めた回答があるなら、開始前にその下に貼っておくと、最初の10分の立ち上がりがまったく変わります(集めた回答の使い方はワークショップの事前課題の設計に詳しく書いています)。

時間が押したときに、何を捨てるか

押します。ほぼ必ず押します。なので、台本には「削る順番」を先に書いておきます。その場で判断すると、たいてい削ってはいけないものを削ります。

私の削る順は決まっていて、①アイスブレイク ②各卓の発表の持ち時間(3分→1分、全卓ではなく2卓だけ指名して残りは成果物の掲示で代替) ③ワークの2周目、の順です。

絶対に削らないのは、最後の「誰が・いつ・何を」を決める時間です。ここを削った場は、その日の議論の中身にかかわらず、翌週には何も残りません(その理由は「やって終わり」になる理由の条件3で書きました)。逆に言えば、ここさえ残れば途中のワークが1つ飛んでも成立します。そのうえで、決めたことを翌日以降どう運ぶかはワークショップの振り返りで扱っています。

進行の言葉として、「時間がないので巻きでお願いします」は言わないようにしています。「巻き」は参加者には実行不能な指示です。何をどう縮めればいいか分からないまま、焦りだけが場に伝わる。代わりに「この卓から2人だけ、30秒で」「結論の一文だけください」と、具体の形に落として渡します。

15分以上押した時点で、延長ではなく持ち帰りに切り替えます。延長を前提にすると、参加者は次の予定を気にし始めて、そこから先の発言の質が落ちます。「残りは宿題として、金曜までに各自1行で」のほうが、結果的に回収率は高いです。

進行役の立ち位置——自分の意見をいつ出すか

中立であることは、意見を言わないことではありません。議論の中身に肩入れしないことです。

出していい場面は3つ。事実の補足(「その施策は昨年も一度やっていますね」)、選択肢が1つしか出ていないときにもう1つ置く(「逆に、何もしないという選択肢はどうですか」)、そして時間の管理です。

出してはいけないのは、良し悪しの評価です。「それはいいですね」を一度言うと、以降の発言は全部、進行役の顔を見ながら出てくるようになります。場の判断基準が参加者から進行役に移ってしまう。褒めるなら、内容ではなく行為を褒めます(「いま具体の案件で話してもらえたので、みんな考えやすくなりました」)。

社内の人が進行役をやる場合の制約は、役職と利害の2つです。自部署が当事者の議題では、進行役を降りるのが結局いちばんうまくいきます。外部に頼むかどうかの判断は、①決裁者が参加する初回か ②部門間で利害が対立しているか ③自分がその議題の当事者か——このどれかに当てはまるなら、利害のない第三者が進行したほうが、率直な言葉が出ます。

よくある質問

台本はどこまで作り込むべきですか?

分単位で作ります。ただし、読み上げるためではなく、捨てる順番と戻すための問いを書いておくためのものです。進行中に見るのは、時間の目安、削る順、型Bで使う一問の3つだけ。台本を作り込んだ上で即興する感覚については顧客解像度を揃えるワークショップのつくり方にも書きました。

参加者に「で、結論は?」と急かされたらどうしますか?

それは型C(並行線)のサインです。急かしている人は結論が欲しいというより、何で決めるのかが見えていないことが多い。そこで結論を急ぐと、声の大きい案に倒れます。「決めるための基準を先に揃えたいのですが、今回は“来月から動けるか”と“既存の顧客に届くか”の2つで見る、でいいですか」と、判断軸の合意を先に取るほうが速いです。軸が決まると、並んでいた案の順位はだいたい自動的に決まります。

オンラインだと、やり方はどう変わりますか?

いちばん違うのは、沈黙の意味が読めないことです。対面なら、考えている顔なのか通じていない顔なのかが見えますが、画面越しでは分かりません。なので、挙手を待たず指名を前提にします。もう1つは、話す前にチャットに書いてもらうこと。全員が書いてから読み上げる形にすると、発言の偏りが消えます。グループに分ける場合の人数や割り当ての注意はワークショップのチーム分けに書いたとおりです。

まとめ

ファシリテーションのコツは、性格や場慣れではなく、手続きとして持てるものです。

  • 仕事の定義は「意見を引き出す」ではなく、いまの話を見えるようにして、次の担当まで落とすこと
  • 止まり方は3つ。黙っていれば型A・逸れていれば型B・並行線なら型C。打ち手は順に、問いを下げる/今日の一文に戻す/判断軸を先に決める
  • 答えられる問いの条件は、自分が見たことから答えられる・答えが1つに絞れる・評価されない
  • 動かないときは、期間を切る/数を指定する/主語を変える、でもう一段下げる
  • 発散と収束は宣言で切り替える。出てしまった案は「脇の付箋」に置いて捨てない
  • 投票は「良いと思うもの」ではなく「関わってもいいもの」に入れてもらう
  • 書く人は進行役と分ける。発言はそのまま書き、要約しない
  • 台本には削る順番を先に書く。最後の「誰が・いつ・何を」だけは削らない
  • 「巻きで」とは言わず、「2人だけ、30秒で」と具体の形にして渡す
  • 中立とは意見を言わないことではなく、良し悪しの評価をしないこと

当日うまく回らなかった場を振り返ると、原因は進行役の話術ではなく、たいてい問いの高さと、切り替えの宣言と、時間の捨て方のどれかです。この3つは事前に決めておけるので、本番の不確定要素はかなり減ります。

なお、進行を良くする前に「その会議が要るか」から見直したい場合は、会議を減らす方法で棚卸しの手順をまとめています。

hytenは、社内の合意形成や顧客理解の場を、目的の設定から当日の進行設計まで一緒につくります。問いの設計や進行台本づくりを含む場づくりは研修・ワークショップを、セミナーやコミュニティなど社外に開く場はイベント初開催支援・運営代行をご覧ください。

自社の場合はどうだろう?と思ったら。

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