セミナーの登壇者を社内から立てる誰に何を話してもらうか

セミナーの企画で必ず詰まるのが登壇者です。テーマは決まった、日程も押さえた、けれど「で、誰が話すのか」で止まる。社内に頼めそうな人が思い浮かばず、結局「外から有名な人を呼べないか」という話になります。

ですが、社外の著名なスピーカーを立てても、商談はあまり増えません。集客に効く登壇者と、受注に効く登壇者は別物だからです。この記事では、セミナーの登壇者を社内から立てるための実務——誰に頼むか、何を話してもらうか、どう頼むか、どう準備を伴走するか——を整理します。

企画全体の組み立てから集客まではセミナーの企画から集客までにまとめています。この記事はその「中身を誰が担うか」の部分です。

社外の著名スピーカーを呼んでも、商談は増えない

有名な人を呼ぶと申込は伸びます。これは事実です。問題は、その申込が何のための申込かということです。

著名なスピーカー目当てで来た人は、その人の話を聞きに来ていて、あなたの会社に用があるわけではありません。終わったあとに残るのは「良い話だった」という感想で、こちらの事業への関心ではない。フォローのメールを送っても反応が薄いのは、そもそも接点の質が違うからです。

さらに、外部登壇者は自社の話をしません(できません)。セミナーの中で「この会社は自分たちの課題を分かっている」と思ってもらう機会が丸ごと消えます。

一方、社内の人間が話すと、集客の数は落ちます。代わりに来るのは、テーマそのものに困っている人です。数は少なくても、話しかけたときに会話が続く。この違いが、そのあとの商談の量を決めます。

外部を呼ぶのが常に間違いという話ではありません。認知を広げたい回、業界の関心を集めたい回には有効です。ただし**「集客の回」と「受注の回」を分けて設計する**こと。全部を1本でやろうとすると、どっちつかずになります。

誰に頼むか:役職ではなく「一次情報」で選ぶ

社内で登壇者を探すとき、多くの会社がまず役職を見ます。部長だから、役員だから、と。これがうまくいかない一番の原因です。

見るべきは肩書きではなく、その人が一次情報を持っているかです。一次情報とは、自分で見た・やった・決めたことです。人から聞いた話や、資料をまとめ直した話には、聞き手を動かす力がありません。

社内を見渡すと、たいてい次の3タイプが見つかります。

1. 現場で回している人

日々その業務をやっている担当者。「実際にやるとこうなる」「教科書どおりにいかないのはここ」を具体で話せます。社内では当たり前すぎて価値に見えていないことが多く、本人も「自分が話すことなんてない」と言います。だいたい、この人がいちばん良い登壇者です。

2. 顧客に一番近い人

営業やカスタマーサクセスなど、顧客の言葉を毎日聞いている人。「お客様がよく言うのはこれ」「導入前に必ず出る質問はこれ」を持っています。参加者は自分と同じ立場の人の悩みを聞きたいので、この情報がよく刺さります。

3. 決めた人

大きな方針を判断した人。役員が向いているのはこの型です。ただし話す内容は会社の方針説明ではなく、「なぜそう決めたのか」「何を捨てたのか」。判断の理由には一次情報があります。方針の紹介には、ありません。

候補を絞る3つの問い

迷ったら、候補者にこの3つを聞いてみてください。

  1. その仕事で、想定と違ったことは何ですか(=失敗や誤算を語れるか)
  2. 同じことをこれから始める人に、最初に伝えることは何ですか(=聞き手目線に立てるか)
  3. その話、社外で話して問題ないですか(=情報の線引きができるか)

3つとも答えが出る人は、話す準備がほぼできています。1つ目が出てこない人は、まだその業務の当事者になっていない可能性があります。

何を話してもらうか:「その人しか言えない一文」から決める

登壇者が決まったら、テーマを決めます。ここで「◯◯について30分お願いします」と丸投げすると、9割の確率で会社紹介と一般論のスライドが出てきます。

やるべきは、その人しか言えない一文を先に見つけることです。

見つけ方は簡単で、雑談から拾います。30分ほど時間をもらって、さきほどの3つの問いを軸に話を聞く。すると必ず、こちらが身を乗り出す瞬間が来ます。「そこ、詳しく聞かせてください」と思った一言——それがその日のセミナーの背骨です。

例を挙げると、

  • 「最初の半年は、ツールを入れる前に運用ルールを作り直すだけで終わりました」
  • 「問い合わせが増えたときに一番困ったのは、実は社内の情報共有のほうでした」

こういう一文です。教科書には載っていないが、経験した人には必ず思い当たる。この一文を軸に据えて、そこから前後を組み立てると、話す本人も楽になります。自分が本当に体験したことなので、覚える必要がないからです。

逆に避けるべきは、「業界のトレンド」「◯◯の基礎知識」といった、その人でなくても話せるテーマです。検索すれば出てくる情報を、わざわざ時間を空けて聞きに来る人はいません。

話す言葉の設計そのものはプレゼンテーションライティングとはスピーチライティングとはで詳しく扱っています。

依頼の仕方:断られる理由を先に潰す

社内への登壇依頼は、だいたい断られます。理由は3つしかありません。

「話すことがない」

本人の謙遜ではなく、本当にそう思っています。だから依頼の時点で「◯◯についてお願いします」ではなく、**「先日おっしゃっていた、あの話をそのまま話してほしい」**と、中身を指定して頼みます。何を話すかがすでに決まっている状態なら、心理的な負荷が一気に下がります。

「時間がない」

これは本当です。だから工数を先に示します。「打ち合わせ30分・リハーサル1時間・当日90分。資料はこちらで作って、確認だけお願いします」。総時間と、相手がやらなくていいことを明示する。「資料はお任せします」と言った瞬間に断られると思ってください。

「失敗したくない」

人前で話すのが不安なのは当然です。ここは「大丈夫です」と言っても解消しません。効くのは具体の安心材料です。リハーサルをやること、質疑は主催者が仕切ること、答えられない質問は持ち帰ってよいこと。逃げ道を先に用意しておくと、引き受けてもらえる確率が上がります。

依頼はメールやチャットで済ませず、短くても口頭で話すこと。文章だけだと、断る理由を考える時間を与えてしまいます。

本人より先に、上長に話を通す

見落とされがちですが、本人がやる気でも上長が渋ると企画は止まります。登壇準備は通常業務の外にある仕事なので、工数を認めてもらう必要があるからです。

順番としては、本人に打診して感触を得たら、すぐに上長へ回します。伝えるのは3点だけで足ります——何のためのセミナーか、その人にお願いしたい理由、かかる時間の合計。とくに2つ目が効きます。「手が空いていそうだから」ではなく「この話ができるのはこの人だけだから」と説明できると、上長の側も送り出しやすくなります。

社内で人を巻き込むときは、頼む相手を一人だけにしないのも大事です。候補を2人挙げておくと、片方が難しくなっても企画が倒れません。

主催者が伴走する3つの準備

登壇を引き受けてもらったあと、主催者が「あとはお願いします」と離れると、当日に事故が起きます。やることは3つです。

登壇者本人が自分で進めるべき準備の手順は登壇準備の進め方にまとめています。依頼のときに一緒に渡しておくと、伴走の手間が減ります。

1. 骨子合わせ(開催の2〜3週間前・30分)

資料を作る前に、話の流れだけを合わせます。伝えたい一文は何か、そこに至る話をどの順で置くか。ここで方向がずれていると、資料が完成してからの修正は不可能です。「資料ができたら見せてください」ではなく、資料を作る前に会う

2. 通しリハーサル(1週間前・1時間)

必ず最初から最後まで通します。部分的な確認では、時間が読めません。ほとんどの人は、初回のリハで予定時間を大きく超えます。ここで削るのは主催者の仕事です。本人は自分の話を削れません。

リハで見るのは、話し方のうまさではなく時間・順番・削るところの3点です。話し方の指摘は、直前にやると自信を奪うだけなので基本的にしません。

3. 当日の逃げ道の用意

質疑で答えられない質問が出たときの引き取り方(「その点は後ほど個別に」)、時間が押したときにどのパートを飛ばすかの取り決め、機材が落ちたときの進め方。事前に「こうなったらこうする」を決めておくと、登壇者は安心して話せます。

当日の後、参加者をどうつなぐかはイベントを商談につなげる導線設計を参照してください。登壇者本人が「このあと個別に話せます」と一言添えるだけで、その後の反応が変わります。

一度きりで終わらせない

初回の登壇がうまくいったら、その人に次も頼みます。2回目からは準備の負荷が半分以下になり、話も明らかに良くなります。

そして、社内に登壇できる人が3人いる状態になると、セミナーの開催頻度を上げられます。登壇者の頭数が、セミナーを定期開催できるかどうかの上限を決めているからです。ここが1人だけだと、その人が忙しい月は開催が止まります。

やっておくとよいのは、終わったあとに登壇者へフィードバックを返すことです。参加者数、アンケートで名前が出た箇所、当日の質問の内容。自分の話が誰にどう届いたかが分かると、次も引き受けてくれます。ここを省くと、頼まれっぱなしという感覚だけが残ります。

こうした企画・依頼・準備の伴走を社内の誰が担うのかについては「1人目のイベント担当」の役割と始め方で解説しています。

よくある質問

社内に話せそうな人が本当に一人もいません。どうすればいいですか?

「話せそうな人がいない」のではなく、「一次情報を持っている人を、話せる人として見ていない」ことがほとんどです。役職や場慣れを基準から外して、直近1年で何かを立ち上げた人・立て直した人を探してみてください。それでも見つからない場合は、対談形式にして主催者が聞き手に回ると、登壇のハードルが大きく下がります。一人で30分話すのは難しくても、質問に答えるだけなら多くの人ができます。

顧客に登壇してもらうのはどうでしょうか?

効果は高いですが、依頼の順番に注意が必要です。いきなり登壇を頼むと重いので、事例取材やインタビュー記事など、軽い協力から段階を踏むのが定石です。また、顧客登壇は「自社の宣伝をさせる場」に見えた瞬間に関係を損ないます。テーマは顧客自身の取り組みに置き、自社の名前は最小限にとどめてください。

役員に登壇してもらうとき、どう準備を頼めばいいですか?

役員ほど、資料を渡して確認してもらう形式は機能しません。時間が取れないうえ、当日のアドリブで内容が変わるからです。効くのは、事前に30分だけ話を聞いてこちらが骨子を作り、その場で口頭合意を取るやり方です。「この3点の順で話してください」まで決めておくと、当日のブレが小さくなります。リハーサルの時間が取れない場合は、せめて冒頭の1分と締めの1分だけは合わせておいてください。

まとめ

セミナーの登壇者は、外に探しに行く前に社内を見てください。

  • 集客に効く登壇者と、受注に効く登壇者は別。回ごとに目的を分ける
  • 選ぶ基準は役職ではなく、一次情報(自分で見た・やった・決めた)を持っているか
  • テーマは雑談から「その人しか言えない一文」を拾い、そこを背骨にする
  • 依頼では「話すことがない・時間がない・失敗したくない」の3つを先に潰す
  • 骨子合わせ → 通しリハ → 逃げ道の用意まで、主催者が伴走する
  • 登壇できる人が3人いると、定期開催が回り始める

hytenは、登壇者の選定からテーマの掘り起こし、話す中身の設計、当日の進行までを伴走します。詳しくはカンファレンス・セミナー・コミュニティのプロデュースをご覧いただくか、お問い合わせからご相談ください。登壇の中身そのものを鍛えたい場合はプレゼンテーションのプロデュースもあわせてご覧ください。

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